2022/12/23
操体法

④操体法的調整の特徴を探る 前編 ~梨状筋の調整テクニックを例に、他の手技療法との比較検討~



【前書き】
2019年8月から2021年8月までの3年間
有料 WEBマガジン 週刊あはきワールドに
「未病を治す」~身体のゆがみをなおす~操体法シリーズ 
というタイトルでを各回 複数の臨床家や関係者が持ち回りで
操体法に関する記事を26回にわたって掲載しました。
川名もその中で 数本の記事を書かせていただいた経緯があります。

ただ、その後 週刊あはきワールドは終刊となってしまいました。
つたない文章ですが、読んでもらえる機会が減ってしまったので
今回編集長の石井利久様のご厚意で ブログへの公開を許可していただきました。
川名の記事を今後複数回に分けて このブログに公開していきます。

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週刊あはきワールド 2021年4月21日号 No.710
「未病を治す」~身体のゆがみをなおす~操体法シリーズ 第22回
操体法的調整の特徴を探る 前編
~梨状筋の調整テクニックを例に、他の手技療法との比較検討~


今回は語られることが少なかった各論的な局所での調整機序について検証、考察してみます。
検証法として他の手技療法との比較検討から操体法の特徴を探っていきます
調整対象としては、梨状筋を取り上げました。
梨状筋を取り上げた理由としては、
・坐骨神経痛など臨床的に痛みの調整アプローチとして取り上げられやすい部位であること、
・操体法をまとめられた故橋本敬三先生の著作にも、梨状筋の調整操法が取り上げられていること、
・他の手技でも取り上げられることが多いので比較検討しやすい
などです。

比較した手技は、オステオパシーと身体均整法です。

オステオパシーとは
オステオパシーは今から約140年前にアメリカ人医師アンドリュー・テーラー・スティル (1828- 1917)
によって創始された手技療法です。短期間にアメリカ全土に拡がった大きな要因の一つは
百年前に大流行したスペイン風邪(インフルエンザ)に対する高い治療効果によるものとされています。
その後オステオパシーはアメリカのみならずイギリスからヨーロッパへ拡がり、
さらには均整法や野口整体を始めとする日本の手技療法にも大きな影響を与えました。
手技としては、
・クラシカルオステオパシー
・誇張法
・ポジショナルリリース
・スティルテクニック
・靭帯性関節ストレイン
・リンパテクニック
・チャップマン反射
など多々ありますが、
今回はその中から、ポジショナルリリースをご紹介いただきました。

身体均整法とは
身体均整法は、創始者、亀井進(1911~1975)が戦後療術法制化運動に関わった中から生み出された手技療法です。
運動系の観点からオステオパシー、スポンデロテラピー、カイロプラクティック、経絡、整体の技術を体系化した技術です。体型論を使った身体の運動機能の捉え方にその特長があります。亀井進と橋本敬三(1897-1993)は、1967年仙台の赤門講習会で初めて出会って以来亀井進が亡くなる1975年までの間お互いに交流し影響し合っていたと思われます。
多数の操法がある中で今回は筋肉操縦法的な操作をご紹介していただきました。

操体法
今回用いた操体法のスタイル
以下のような考えで組み立ててみました。
*以前のあはき原稿で川名が考察した事を踏まえて 橋本敬三が1975年以前既に提唱していた組み立て(1970年代後半からのブレイク以前のスタイル)

梨状筋概要
画像>梨状筋解剖図
起始:仙骨前面と仙結節靭帯
停止:大腿骨の大転子の上縁
神経:第1,2仙骨神経前枝
動脈:上殿動脈、下臀動脈、内陰部動脈
主な作用:伸展した大腿を外旋し、屈曲した大腿の外転、
大腿骨を寛骨臼に固定
上殿動静脈、上殿神経:大坐骨孔と梨状筋の上を通る
坐骨神経、下臀動静脈、下臀神経:大坐骨孔と梨状筋の下を通る




動画① オステオパシー 身体均整法
 
オステオパシー(ポジショナルリリース)解説
他動的操作 受け手 伏臥位  操者 患側外方に位置する
確認 股関節、膝伸展位で梨状筋圧痛点を探る
操作 
受け手 伏臥位 股関節外転外旋位 膝屈曲
操者
  頭方手 固定点;コンタクトポイント 梨状筋圧痛部 
  足方手 操作点;同側下腿を下から把持 

 梨状筋起始と停止を近づけるよう股関節の方向をコントロール
  圧痛が軽減するポイントで、90秒維持
  (モニターにしている、圧痛点は操作時は触れているだけ。)
*別法は簡略版
ターゲットの筋肉筋長が短縮する方向へ圧縮してしばらく維持、開放>筋緊張緩和

身体均整法(筋肉操縦法)解説
他動的操作 受け手 伏臥位  操者 患側足方に位置する
確認 膝屈曲位で股関節内旋可動域確認>可動域減少側=梨状筋緊張と判断
操作
受け手 伏臥位 患側膝屈曲
操者 患側足方に位置し 患側内方から外方に向く

  頭方手 固定点(圧定) コンタクトポイント 梨状筋起始部(仙骨) 
 足方手 操作点 同側足首を下から把持 
  梨状筋に伸張をかけるように大腿が内旋するよう下肢をコントロール

梨状筋に適度に張力がかかったところで受け手に息を吸わせる。仙骨部は圧定維持
吸気の頂点で伸張解除
ターゲットの筋肉筋長が伸展する方向へ操作してしばらく維持、呼吸をつかって張力操作 開放>筋緊張緩和



動画②操体法 

操体法、
 ここで用いた手技の解説
*注1 
以前のあはき原稿で考察した事を踏まえて組み立てた操体法
 1970年代以前(ブレイク以前のスタイルを再現)
 亀井進が解釈した当時の機構機序を参考にする
 ・瞬間脱力で筋の等尺性収縮からの開放という
   筋の緊張と弛緩のコントラストをハッキリと出す。
 ・伸張反射などの反射機序を利用、
 ・ターゲットの筋肉、部位に対して抵抗圧の力加減、加圧の方向を的確に行う など
藤田六朗も引用した異常感覚と運動系の歪み
(日本医事新報 1957年10月)に記載してある運動系の原則を参考にする
 
仰臥位01
万病を治せる妙療法 橋本敬三著 農山漁村文化協会 p68に出てくる操法です。
内臓下垂 慢性婦人科疾患のヒトの梨状筋緊張に対する操法として紹介されています。
自動抵抗運動
受け手 仰臥位 膝屈曲位 掃者の膝の上に足を乗せる 操者 患側足方に位置する 正坐位
操作
受け手 足を床に垂直に踏む 腰を少し浮かせる しばらく維持 瞬間脱力
操者 両側の足首を把持固定

瞬間脱力で腰が床にポトンと落ちる軽い衝撃をきっかけに筋緊張を緩解させる。
*ただこの操法は実際やってみると梨状筋そのものへの刺激、調整というより
仙骨部への軽い衝撃で骨盤周囲の筋肉、靭帯バランスの変化が効果を及ぼすように
考えられる。
そこで、もう少し直接的に梨状筋にアプローチしているのが次の操法です。


仰臥位02
万病を治せる妙療法 橋本敬三著 農山漁村文化協会 p64に出てくる操法です。
自動抵抗運動
確認
受け手 仰臥位 膝屈曲位 左右に膝を倒して可動域や動きやすさの左右差をチェック
倒しにくい側の反対側の梨状筋が緊張しているとこの場合判断
操作
受け手 膝を倒しにくい方だけ反対に外側に倒す この時足関節背屈、踵支点にすると動きやすい。
操者 
足方手 患側の膝を把持し動きを誘導支える
頭方手 梨状筋緊張部を圧定モニターする
梨状筋の緊張部位に張力が入るポイントで抵抗維持>瞬間脱力

梨状筋短縮方向の自動運動に対して抵抗をかけ等尺性収縮状態をつくることで
積極的に筋を圧縮、瞬間脱力で開放 反射的に緊張緩和を狙った操法

腹臥位
操体法の実際 橋本恵三監修 茂貫雅嵩 編著 農山漁村文化協会 P81に出てくる操法です。
自動抵抗運動
確認
受け手 伏臥位 膝屈曲位 左右に膝を屈曲して可動域や動きやすさの左右差をチェック
屈曲しにくい側の梨状筋が緊張しているとこの場合判断
操作
受け手 屈曲しにくい方だけ膝、股関節を伸展させる膝が床から少し浮くくらい股関節を伸展させる 
 この時足関節背屈にすると下腿後側のテンションが導きやすい
操者 受け手の足方に位置 伸展する下腿、足関節を下から支える。
足方手 患側の膝を把持し動きを誘導支える
頭方手 梨状筋緊張部を圧定モニターする
梨状筋の緊張部位に張力が入るポイントで抵抗維持>瞬間脱力
梨状筋短縮方向の自動運動に対して抵抗をかけ等尺性収縮状態をつくることで
積極的に筋を圧縮、瞬間脱力で開放 反射的に緊張緩和を狙った操法
(足首での外反、内反操作抵抗を加えるとよりターゲット部位、梨状筋に刺激が入ると思います。)

呼吸の指示については動画ではコメントしてませんが、基本呼気で動くとされてます。
持続時間も3~5秒が一般的です。




まとめ
オステオパシー(ポジショナルリリース)は全体として侵襲性の低いソフトな刺激で、からだが変化していくのを待ってあげるという調整法のように感じます。

身体均整法は呼吸のタイミングをつかって反射を使った操法が多いです。

操体法の特徴はやはり自動運動を使うところだと思います。また、瞬間脱力などは反射を利用した組み立てだと思います。ただ、刺激効果の持続性を考えると反射の機序だけでは説明できないので、他の治効機序も働いていると思います。

成立年代として、この3つの手技の中ではオステオパシーが1番古く均整法はその影響を受けています、そして均整法も操体法も日本各地方の療術の系譜を引き継いでいる歴史があります。時代の要請と創始者の感性がミックスして作り上げられたのが各調整法だと思います。
比較検討から見えてきた操体法の長所と短所を簡単にまとめてみました。

長所
・連動により全身の動きを誘導、調整に導く

・セルフケアへの応用により生活の質を向上できる

・気持ち良い ラクという感覚 情動(快感覚)を指標にすることによって運動器調整にとどまらず
 自律神経系調整にも有効(呼吸数、脈拍の変化など)>これについては次回検討してみます。

・等尺性収縮は、骨運動を伴わない筋収縮(厳密には最小限に留めた筋収縮)が可能なため、
 (一般的には)「骨運動を伴う筋収縮では疼痛が誘発されるが、伴わない筋収縮では誘発されない」
  といったメリットがある。

・適切な運動(操法)により筋出力(神経系の機能)の向上(促通)が期待できる。

短所
・スタティックストレッチングによる、運動パフォーマンスの低下
   >筋肉を適正以上に弛緩させてしまう可能性がある。(筋出力の抑制)

・半球間抑制による筋トーヌスの低下>体調の改善につながらないリラクゼーションに留まる可能性がある。

・受け手の自動運動、感覚指標に依存しすぎる>感覚の識別や動きの誘導が困難な方に対応しにくい。
   例)高齢者、幼児など

ところで、実際、徒手療法の刺激は、からだをどのように変化させているのでしょうか?
最終的には循環が改善されることがからだの変化に寄与する大きなポイントだと
いえます。しかし、実際実験をすると意外とそうでない場合もあるということを
次回考えてみたいと思います。

最後に今回、撮影と解説のご協力をいただいた
注2中野史朗先生、注3小柳弐魄先生には感謝いたします。

注1
●あはきワールド 
2019年9月18日号 No.634
「未病を治す」~身体のゆがみをなおす~操体法シリーズ 第4回
川名慶子


●あはきワールド 
2019年11月20日号 No.642
「未病を治す」~身体のゆがみをなおす~操体法シリーズ 第6回
川名慶子

注2
● 中野史朗先生 プロフィール
東都リハビリテーション学院均整保健均整学科卒
クラシカルオステオパシーからモダンオステオパシーまで国際セミナーの通訳を10年経験。海外オステオパスとも交流。
元日本クラシカルオステオパシー協会講師。大井町で開業、均整法にオステオパシー、長野式を組み合わせた施術をしている。著書『 からだをほぐすこころをゆるめる―東洋医学の養生法』。
 
注3
● 小柳弐魄先生 プロフィール
一般社団法人身体均整師会理事副会長
身体均整法学園学園事業部長 
伊良林鍼灸均整院 AFINA 院長
人間総合科学大学 人間科学部
東京医療専門学校 鍼灸科上海中医药大学 Shanghai University of Traditional Chinese Medicine 解剖コース


週刊あはきワールド 「未病を治す」~身体のゆがみをなおす~操体法シリーズ
川名執筆記事リスト

①操体法の原理を探る シリーズ 第4回

②「経絡学入門 基礎編」 藤田六朗著から読み解く、 橋本敬三と藤田六朗 二人の関係と理論 シリーズ 第6回

③橋本敬三の操体法操法の中にみられる姿勢 跪坐(きざ)についての一考察 シリーズ 第11回

④操体法的調整の特徴を探る 前編 ~梨状筋の調整テクニックを例に、他の手技療法との比較検討~ シリーズ  第22回

⑤操体法的調整の特徴を探る 後編 ~もう一つの仮説、循環改善によらない刺激変化とは?~ シリーズ 第23回


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